6月の雨。

小学4年の梅雨。

 

大事に飼っていた小鳥がいた。

黄色の羽に、少しだけ黒の模様が混じっていた。

 

生き物の体温を生で感じた、初めて世界。

 

 

何度目かの卵を産むとき、

卵が詰まってしまい、

温かい彼女が

苦しそうにしている姿を見た

 

辛そうな姿は、

胸の奥をグイグイと

押されるかのようで息苦しく、

声をかけるしかない苛立ちは、

家の柱を叩いて誤魔化した。

 

近くの獣医で治療をしてもらったが、

温かい彼女は、

まだとても苦しそうで、

その夜は、僕の手の中に入れて過ごした。

 

 

 

『かっちゃん、ぴーちゃん死んじゃたよ』

そんな母親の言葉で目が覚めた。

 

顔の横にいた彼女を、

掌に包み込むと、

目を瞑ったままの彼女がいた。

彼女はとても冷たかった。

 

庭先の土の中、母と2人、

冷たくなった彼女を丁寧に、優しく埋めた。

 

何故、そうするのか、全くわからなかった。

息も出来ない、水も飲めない、目も開けられないだろうに…。

 

『生きている者は、いつか必ず死んじゃんうんだよ』

 

そう言われたが、

それでも、

死というものが、

どういう事なのかわからなかった。

 

学校から帰ったなら、

目を開けて、

籠の中に戻るものだとさえ感じた。

 

 

『雨のふりそうな空模様、

雨具を持って、傘もって…』

 

その日、音楽教室で合唱した歌を忘れる事が出来ない。その途中から、

何がなんだかわからなくなって、

歌いながら涙が溢れてきた。

 

この世から何かが

なくなってしまうという事が…

誰かが居なくなってしまう事が…

 

いったいどんな事なのか?

 

もしかしたら、

彼女はもう目を開けないのか?

と思ったら、また涙が出た。

 

 

家に帰ると、

無我夢中で、土を掘り返した。

6月の雨の中。

 

泣きながら土をほじり、

彼女を探した。

早く温めてあげなくてはならないからだ。

 

どれだけ掘り返しても

朝、埋めたはずの彼女は、

何処にもいなかった。

 

仕事帰りの母親が、その姿に気づいて、

僕をもう一度なだめた。

 

『かっちゃん、ぴーちゃんは死んだから、もういないの』

 

 

 

 

それは未だに何故なのかわからない。

違う場所を掘ったのか?

既に、猫か何かに、荒らされたのか?

 

掘り起こした時間は、

きっと数分なのだろうが、

僕の中で、その数分は、

とても長い時間だっと記憶されている。

 

1秒は絶対的であり、

誰にとっても同じ時間なのにだ。

 

しかし、時間を観念で眺めれば、

その1秒は、まるっきり違った尺度にもなる。

 

更に、その時間は、

想い出という時空を彷徨い、

心に光も闇も刺しこんで、

彼女を思い出させてくれる

 

 

その時から40数年の時が経った

にも関わらず、

あの憂鬱な『6月の雨』が離れないのは…

 

 

死という得体の知れない

闇を初めて味わったからなのか?

 

大切なものを失った哀しみか?

 

後ろへは刻めない時への無力さからか?

 

生死の背中合わせに対する

覚悟の重さなのか?

 

 

だけども、

その冷たくなった彼女の思い出は、

命が通ったように、

不思議と未だ温かい

 

生きるという事は、

そういう事なのだろう


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